■この記事で気になった点。S&P500を<前年同月比>でグラフ化する点。
指標がどのようなトレンドに沿って動いているのか、その変化の方向や勢い(モメンタム)は「前年同月比」の方によく現れ、しかも、水準よりも転換点が早く訪れることが多いので、そのトレンドが変わらなければ「前年同月比」を見ることによって指標の先行きを予想可能
実際にEXCELでグラフを描いてみた。


■参考にした記事→財経新聞
https://www.zaikei.co.jp/article/20140524/195247.html

【5月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】昨日のNY市場では、S&P500が終値で初めて1900を超え、最高値を更新しました。メディアの市況解説をみると、昨日発表された4月の新築住宅販売が前月比6.4%増の43万3千戸(年率)と市場予想を上回り3か月ぶりに増加したことが株式市場に好感されたとのことです。
その一方で、債券市場は上昇し10年国債利回りは0.02%低下の2.53%で引けています。強い景気指標を受けて景気回復への期待が高まれば、普通であれば債券は売られて10年国債利回りは上昇するはずです。市況解説では、ウクライナの混乱(武力衝突で25日の大統領選の準備に影響が出ている)や欧州の景気減速(昨日ドイツで発表された5月のIFo景況感指数が予想以上に悪化した)を受けて逃避需要が強まったことが理由にあげられており、「新築住宅販売の増加は債券市場では材料視されなかった」とあります。
しかし、このような市況解説を読んでもどうも釈然としない、というのが正直なところではないでしょうか。
米国のマーケットでは、昨日に限らず、底堅い景気指標を受けて株式市場は上がるのに、金利は低下するという逆転現象がこのところの傾向となっています。今回はこのナゾを解いてみたいと思います。
図1の2つのグラフは、10年国債利回りに対してS&P500の水準(上のグラフ)と前年同月比(下のグラフ)をそれぞれ重ねたものです。上のS&P500の水準のグラフを見ると、今年に入ってから株価が上昇し長期金利が低下しているこのところの傾向が確認できます。一方、株価を前年比にした下のグラフを見ると、今年に入ってから長期金利の低下に合わせて株価の前年比の伸びも低下していることがわかります。今年に限らず、長期金利は株価の水準よりも前年比の方に連動していることがわかります。
5/13のブログにも書いたように、指標の足元の変化を見る場合には「前年同月比」ではなく季節調整値の「前月比」で見なければいけませんが、一方で、指標がどのようなトレンドに沿って動いているのか、その変化の方向や勢い(モメンタム)は「前年同月比」の方によく現れ、しかも、水準よりも転換点が早く訪れることが多いので、そのトレンドが変わらなければ「前年同月比」を見ることによって指標の先行きを予測することが可能となります。
米国株の場合、S&P500は足元で最高値を更新していますが、前年同月比という変化率でみると、グラフに見るように昨年11月のプラス27.9%をピークに、この5月(5/1〜5/23の月中平均)には前年同月比プラス14.9%まで伸びが低下しています。株価の水準は上昇しているもののその勢い(モメンタム)は鈍化傾向にあり、もしこのトレンドが続くとすると年末には前年比ゼロまで伸びが鈍化し、年央のどこかで(通常は前年比ゼロとなる半年ほど前に)株価の水準はピークをつけることが予想されます。足元の長期金利の低下は株価のこのようなモメンタムの鈍化を反映していると考えられます。
発表される景気指標は良好で、景気のトレンドが上向きにも拘わらず、なぜ長期金利や株価のモメンタムが低下しているのか。ここでも、景気指標を水準で見るか変化率でみるかによって、景気に対する見方が異なってきます。【続】↓


【5月24日、さくらフィナンシャルニュース=東京】図2は米国の製造業の景況感を表す代表的な指標であるISM景況指数の新規受注とフィラデルフィア連銀景況指数の中の期待指数の推移です。いずれも景気が前月から良くなったか悪化したか、6か月先の景気が良くなるか悪くなるかという変化の方向を企業の担当者に尋ねた景況調査です。現在が良いか悪いかという「水準」よりも「変化の方向」の方が景気の動きを先取するため、景気先行指標として市場の注目度も高い指標です。
グラフを見ると、いずれも昨年後半に急上昇して秋から年末にかけてピークをつけたあと、今年に入ってから急低下しており、景気のモメンタムが鈍化したことがわかります。冬の寒波の影響もあったとみられますが、影響がすでになくなっているにも拘わらず現在の指標の水準は昨年のピークをかなり下回っており、寒波の影響だけではないモメンタムの基調の変化が背景にあることを伺わせます。米国の長期金利や株価のモメンタムの低下は、このような米景気のモメンタムの低下が背景にあるとみられます。
22日には4月の米景気先行指数が発表され、前月比0.4%上昇と上昇基調が続いており、米景気の先行きにとっては明るい材料となっています。ただ、この景気先行指数もまた前年比でみると、4月はプラス5.7%上昇と3月のプラス6.2%から伸びがやや鈍化しています。図3からもわかるように、景気先行指数とその構成指標の一つであるS&P500の前年比をみると、ほぼ同じ方向に動いており、株価の前年比のピークアウトはやがて景気先行指数がピークアウトすることを示唆しているように見えます。
ちょうど現在と同じように長期金利が低下する中で株価が上昇を続けた時期が2000年前半にもありました。この時も、株価は上昇していましたが、株価の前年比の伸びや製造業の景況指数は鈍化傾向に転じていました。S&P500がピークをつけたのは2000年8月でしたが、ナスダック指数は先行してすでに3月にピークアウトしていました。ITバブルのピークであった2000年と現在はこうした状況が良く似ています。
今後、米国の景気や株価を見る場合には、水準よりもモメンタムに注意を払う必要があります。【了】
野田 聖二のだせいじ/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)、『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。